君へ

七枚目の般若心経が君の棺に収まることになるとは思いもしなかった。

「何しに来たの?」
「農業だよ」
「ダセェ!」
忘れもしない、そんな初対面の会話は福地小学校校庭の野球ネット前、私が29歳、君はまだ中学生の時だった。
目を瞑るとまるで昨日のことのように感じる。
そうだ、君は田舎では珍しいカッコイイ自転車に乗ってたな。

若気の至りでやんちゃして、山ちゃんは元警察官だからって預けらるように何ヶ月も一緒に農作業したこともあったね。
あれがもう20年も前になるのか。
やっぱりそれも昨日のことのように感じる。
そうだ、君は暑いビニールハウスで熱中症ぽくなってダウンしてた。

結婚式にも呼んでもらって、ヒューヒュー盛り上げてたら君のお父さんには「めでたい席に山ちゃんは欠かせないね。10人分の盛り上げかた!」なんて喜んで褒めてもらったんだよ。
そうだ、君は「俺様の生き様を見ろ〜!」なんてイッキを繰り返して酔っ払ってた。

それからは随分経って一緒に飲みに行った気もするし、行ってない気もする。
でも大丈夫かな、元気でやってるかな?っていつも気にしてた。
優しいくせに、他の人にはちょっと虚勢張ったり斜に構えてみたりすることもあるのに、不思議と僕の前では素直そのもの優しさそのもの、弟分よろしくいつもよく気を遣ってくれた。
そう言えば、今年私がある事件に巻き込まれた時には体調が悪いのを押して、すぐに助けに来てくれた。

あのね、体調が良くなったら短時間でもいいからまた農作業を手伝ってもらうつもりでいたんだよ。
つい最近も車でちょっと遠出する時なんか、昔みたいに君を助手席に乗っけていろんな話聞かせてもらおうかなとも思ってたんだ。

「山ちゃんには小さい頃から可愛がってもらって、ずいぶん心配もかけてきたな」
たった数日前電話で君がそう話してくれたのが、お別れの言葉になってしまうなんて。
でも、もう痛みやつらさはないね。
これまでよくがんばったね。

僕が一番に駆けつけたのは偶然じゃないね。
最後まで頼りにしてくれてたんだ。
もっといい兄貴でいたかった。
もっといろんな話をしたかった。

しばらく会えなくなっちゃったけど、ずいぶん順番も違うけど、いずれまた会おう。
その時は「山ちゃん来るのが遅いって!」なんて君のあの懐っこい笑顔で迎えてください。
道に迷わないようにうららにも道案内を頼んどきました。

君のことはずっ〜と忘れません。
ありがとう。
ありがとう。
おつかれ様、これまで大変だった分、これからはゆっくり休んでください。
再見。

いつまでもかわいい弟分の君へ。
いつまでも君の兄貴分、山ちゃんより。