鳴らすな危険

名古屋駅新幹線ホーム。
いつも思い出す。

横浜の大学に受かって、初めて上京する時
高校のフィールドホッケー部同期達が
みんな揃って新幹線ホームまで見送りに
来てくれた。

しかもこの見送りは誰の企みかサプライズ。
途中の私鉄で同期一人と偶然出会って
「こんな偶然あるのか?」と驚いたけど
今から考えたら携帯のない時代、
一人はちゃんと私が電車に乗ったのか
見張役だったんだろうな。

名古屋駅のホームに着くとみんなが
待っていてくれて口々に
「山田、あっちでもがんばってこいよ」
なんて出征する兵隊さんを送るみたいに
激励してくれた。
「ありがとうみんな!」
私もそれに応えて一人一人と熱くハグ。

いよいよ新幹線のドアが開き乗り込んで
ホームのみんなの方を振り返って見ると
「山田〜!がんばれ〜!!」と各自
手に手に隠し持っていたクラッカーを
一斉に「パパパーン!パパパーン!」と
鳴らしてくれた。
紙吹雪と小さな細いテープが宙を舞った。

なんという心の籠ったサプライズだろう。
なんという幸せ、喜び、高校3年間
苦楽を共にした同期たちよ「ありがとう!」
と言いかけた瞬間私は目を疑った。

「おい!何をしているんだ!コラッ💢」
クラッカーを鳴らした瞬間、ホームに居た
何人もの警備員たちが怒号と共に
血相を変えて一斉に同期たちに
飛びかかって全員取り押さえようとしている。

同期たちは「な、なんなんだ!!?」
と警備員たちが取り押さえようとしている
のに抵抗し暴れている。
一瞬どこかの映像で見たことがあると思った。
それが全共闘とかの学生運動の白黒画像だと
すぐに気付いた。

気付いた瞬間に私の乗った新幹線のドアが
プシューと閉まった。

「え、ええええッ!」と窓越しに
目が点になっている私。
ホームでは必死に抵抗するものの
警備員たちに羽交締めにされ
それでもなお暴れている同期たち。

さようなら同期たち。
僕は横浜でもがんばって来るよ!


‥‥新幹線ホームではお祝い事であっても
クラッカー🎉を鳴らしてはいけない。

名古屋駅新幹線ホームに来るといつも
私の見送りをしてくれたばかりに
捕縛されてしまった同期たちが
その後どこに連行され、どんな取調べを受け、
どんな供述をし、どんな処分が下されたのか
その詳細を想像してしまう。

40年前、フィールドホッケー部の
仲間たちよ、こんなおっさんになったけど
改めて言わせてくれ
「ありがとう、あの後どうなったん?」